東信州次世代イノベーションセンター

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●コーヒーカスを再利用したエコなストーブ燃料を開発

2023.09.28 掲載

信州・上田の地でコーヒーを栽培したい

 

コーヒーを淹れた後に残るカスをストーブの燃料にする、そんな研究が進んでいます。コーヒーを淹れた後に残るカス、いわゆるコーヒーカスは、ほとんどの場合そのまま捨てられてしまいます。しかし、ストーブの燃料として再利用できれば、環境に優しいエコなエネルギーとして生まれ変わるのです。

この研究開発に取り組んでいるのは、信州地域エネルギー株式会社。事業を始めたきっかけは、ある地元企業との出会いでした。

 

「ある企業がコーヒーのハウス栽培を計画しているという話を小耳に挟み、そのハウスの暖房用にと提案したのが始まりでした」(代表取締役 田島 忍さん)

 

上田市は、一般的なコーヒーの産地に比べて冬の気温が低く、露地栽培には適していません。栽培するとしたらハウス栽培を行い、冬は暖房を使って加温する必要があります。しかし、暖房に石油やガスといった化石燃料を使うのはエコではありません。もともと、企業としては上田市の新しい観光資源を開発しようとして取り組んだプロジェクトであり、地域や社会に貢献できる形を目指していました。そこで提案したのが、コーヒーカスを使ったストーブの導入だったのです。

その企業がコーヒーの木を栽培し、コーヒー豆を焙煎・ドリップして販売する。その時に出るコーヒーカスを燃料に使うことで、化石燃料を浪費しない循環型システムが出来上がるというわけです。

とはいえ、それは信州地域エネルギーにとっても未知のチャレンジでした。同社は、木(木質チップ)を使ったバイオマスボイラーの導入支援事業や、森林の保全事業などを行う会社です。木材を燃料として扱うノウハウはありますが、コーヒーカスを燃料にしたことはありませんでした。

そこで同社は、全国各地にあるさまざまな企業を訪ね、木とコーヒーカスを混合した燃料を開発するヒントを集めました。

 

 

 

 

コーヒーカスは燃焼効率の高い資源

 

実はコーヒーカスは、バイオ燃料として適した素材です。イギリスでは、木材よりも20%も熱効率が高いというコーヒーカス圧縮燃料を開発しているほどです。

しかし、このコーヒーカスをストーブの燃料にするのは簡単ではありませんでした。同社は、「木質ペレット」を使う「ペレットストーブ」の導入をベースに考えていました。ペレットストーブ自体はすでにさまざまな製品が市場に出回っていて、ハウスの規模に合った製品を柔軟に選ぶことができます。導入費用も、特殊な暖房装置よりも抑えることができます。ただし問題は、ストーブに使うペレットの開発です。

ペレットは、おがくずなどの木質素材を圧縮して成形しますが、コーヒーカスだけではなかなか固まらないのです。そこで、おがくずと混ぜてペレットをつくるのですが、どれくらいの比率なら成形可能かを繰り返し検証する必要がありました。また、コーヒーカスも、ただ混ぜればいいというわけではありません。事前にある程度乾燥させる必要があるのですが、乾かしすぎると固まりません。微妙なさじ加減が必要なのです。

 

「天日干しで乾かそうと思ったのですが、思ったような数値には乾きませんでした。長野は寒天をつくれるくらいだからコーヒーカスも乾かせると思ったのですが…。やってみて初めてわかることがたくさんありました」

 

ハウスの建築は、今年(2023年)の5月から始まる予定です。最初は小規模な実験棟でのスタートになるそうです。夏場は加温の必要性がないため、暖房設備の稼働は冬からとなります。

ただし、実際にこのシステムで育てたコーヒーを飲むことができるのは、もう少し先の話になります。一般的に、コーヒーの木の成長には時間がかかり、収穫できるようになるまで3〜5年かかるそうです。本格的なシステムの稼働まで、じっくりと気長に待つ必要があるでしょう。

 

 

 

 

地域の未来を育む循環型事業

 

この開発プロジェクトを手掛ける信州地域エネルギーは、2022年に設立した新しい会社です。

○信州地域エネルギー株式会社   https://www.shinshu-local.com

 

代表取締役の田島 忍さんは、金融機関から県内の木材製造会社に入社するという一風変わった経歴の持ち主です。もともと上田市の出身で、県外でキャリアを積んだ上でのUターン入社でした。

田島さんは、その会社に在籍している間に、新規事業の一つとして木質バイオマスを使った熱提供事業を立ち上げました。丸太から木材を切り出すときに出る端材を捨ててしまうのではなく、燃料として有効活用しようという試みでした。

それから紆余曲折があり、田島さんは自ら会社を立ち上げ事業を継承しました。現在は、木質チップを使ったバイオマスボイラーを企業が導入するための支援事業を行っています。温泉施設など日常的にボイラーを稼働させる施設にとって、より環境に配慮したエネルギーとして注目を集めています。

また、同社は、森林の保全事業も行っています。自然を守るためには、植樹をしたり、木を間引いて森の密度を調整するなど、人が手をかけていく必要があります。

 

「例えば、菅平地域は今、急速に草原が失われていっています。昔と比べて草原をメンテナンスする人が減ってしまい、放置された草原が鬱蒼とした林に姿を変えているのです」(田島さん)

 

こうした状況は、菅平に限らず県内のあちこちで起きています。そして、さまざまな企業がエコ活動の一環として、これらの草原や森の保全に取り組んでいます。同社はそんな企業の活動をサポートし、木々の伐採や保全レポートの作成といった役割を担っています。

さらにこうした活動を行うため、同社は林業従事者の雇用にも力を注いでいます。現在、国内における林業の担い手は減少の一途を辿っています。他の産業に比べて労働災害の発生率が高い一方で、給与水準は決して高くないという背景があります。同社では、エネルギー事業や環境保全事業など林業に新しい価値を創出し、給与水準の引き上げにつなげていくことを目指しています。

同社が環境の保全のために木々を伐採し、その木材をエコなエネルギーとして地域に提供する。そして、そのサイクルを回すために、林業従事者の新たな雇用も創出する…。同社が考えているのは、そんな循環型の事業形態です。この一覧の取り組みは、きっと地域の自然、林業、雇用を守り、明るい未来を育んでくれるものになるでしょう。

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